インドの財閥 ― Fortune Global 500

インドの経済界を俯瞰するにあたって、財閥の存在は避けて通れない。17年7月に発表されたFortune Global 500にはインド企業7社が選出され、リライアンス・インダストリーズとタタ・モーターズがそれぞれ203位、247位にランクインした。ランクインした民間企業3社の内、2社が上記の財閥系である。

 

■2017年 Fortune 500企業リスト

http://fortune.com/global500/

 

インドにおける代表的な株価指数SENSEXはムンバイ証券取引所BSE)に上場する主要約30銘柄から構成されているが、その約4割の企業が財閥系である。現在のインド財閥の雄といえば冒頭のタタとリライアンスである。これらの名前はインドに住んでいると頻繁に触れることになる。また、近年この2社に差をつけられてしまったビルラを加えた3社が御三家と呼ばれている。本稿ではタタとリライアンスの成り立ちや構成企業、規模等を簡単に紹介したい。

(なお、歴史的経緯に関しては「インド財閥のすべて」が詳しい)

 

インド史上トップに君臨し続けるタタ財閥

タタ・グループは17年3月期の収益INR 673 thousand crore(約11.4兆円)、上場企業29社の株式時価総額 INR 988 thousand crore*(約16.8兆円)を誇るインド最大の企業グループである。中核企業のタタ・コンサルティング・サービシーズ(TCS)は急成長するインドITセクターのトップ企業である。今やその株式時価総額はINR 525 thousand crore*(約8.9兆円)を超える。その他にも、2007年に自身より大きい英コーラスを買収し鉄鋼業界のトップ10入りを果たしたタタ・スチール、2008年に小型低価格自動車「ナノ」を市販し、名門・英ジャガー・ランドローバーを買収したタタ・モーターズ、同じく2008年にNTTドコモとJVを設立し、最近提携を解消したタタ・テレサービシーズ等、100社を超えるグループ企業を抱えている。これらグループ企業を統括するのが「タタ・サンズ」と「タタ・インダストリーズ」である。タタ・サンズの株式の66%は創業家タタ一族の財団が保有しており、ファミリー企業ならではの迅速かつ大胆な意思決定を支えている。

*時価総額は2018年1月15日時点

 

タタ・コンサルティング・サービシーズ(TCS)は17年3月期の収益INR 118 thousand crore(約2.0兆円)、営業利益率26%、過去5年の収益CAGR 19%というタタ・グループの花形事業である。インドITビッグ4(TCS、インフォシス、HCL、ウィプロ)の中でも突出したリーダー企業であり、従来からのオンプレミス型エンタープライズ・サービスに加え、クラウド・モバイル・AI・ビッグデータ・ソーシャルといった最先端の技術領域に関するサービスも提供している。

タタ・モータースはインド地場最大手の自動車メーカーであり、商用車事業のインド市場シェア(台数)は4割を超えるリーダー企業である。17年3月期の収益INR 275 thousand crore(約4.7兆円)、営業利益率3%、過去5年の収益CAGR 10%と自動車産業の成長を背景に事業を拡大している。ただし、過去5年でシェアを15%も落とす等、マヒンドラ、アショクといった競合他社に押され苦しんでいると言える。また、乗用車事業はインド市場シェア(台数)6%と3番手グループに甘んじている。

 

兄弟確執により分裂した新興リライアンス財閥

リライアンス・グループはインド独立後の1966年に設立された新興の財閥である。創業者ディルバイ・アンバニ氏が一代でインド有数の企業を築き上げたが、後継を巡って長男ムケシュ・アンバニ氏と次男アニル・アンバニ氏が対立し、ムケシュ・アンバニ氏率いるリライアンス・インダストリーズとアニル・アンバニ氏率いるリアイランス・ADA・グループに分裂。本家リライアンス・インダストリーズは17年3月期の収益INR 330 thousand crore(約5.6兆円)、純利益率9.1%を誇る。収益の7割以上を占める石油精製・販売事業を中心とし、石油化学事業や小売事業を展開している。一方、分家リライアンス・ADA・グループは通信事業・インフラ事業・金融事業を中心としているが、事業における度重なる兄弟騒動等により存在感が薄れつつある。

日本でリライアンスが取り上げられたニュースと言えば、2016年にムケシュ・アンバニ氏が発表した「10億人が無料で使える4G通信サービス」が記憶に新しい。USD 20 Bil(約2.2兆円) を投じ、リライアンス・ジオ*と呼ばれる格安4G通信サービスで通信業界へ参入。今後、モディ首相肝入りの「デジタル・インディア」政策が目標とする全国民(とりわけ農村部)へのインターネット・モバイル接続提供を強烈に後押しするはずである。また、この参入が通信業界に価格競争を巻き起こし、業界大手のエアテル及びボーダフォンが3G/4Gサービスの料金を70-80%引き下げたことでユーザーの利用料が大幅に下がった。

*ジオはDigital India政策におけるパートナー企業(http://digitalindia.gov.in/content/telecom-partner

 

その他、御三家の一角・ビルラを始め、日系企業との合弁経験を有するキルロスカ(トヨタ)やヒーロー(ホンダ二輪)、更にはアダニ(建設)、L&T(建設)、マヒンドラ(四輪)、TVS(二輪)、ゴドレジ(日用品)、バーティ(通信)といった各産業セクターを代表する財閥企業が存在する。昨今のFDI(外国資本による直接投資)規制緩和により外資企業の参入が容易になったとはいえ、インド参入に当たっては敵対・協業することになる財閥の存在を意識する必要があると言える。

 

参考:

・インド財閥のすべて(須貝信一, 平凡社新書