スタートアップ・インディア -インド・スタートアップの今ー

去る10月下旬にインドIT業界団体NASSCOMが公表したレポートによると、2018年1~9月にインドには1,200社超のテック・スタートアップが新たに生まれ、合計約7,700社にのぼるテック・スタートアップが現在活動しているようである。インキュベーターアクセラレーター数も210を超え、500を超える投資家からの資金調達総額が同期間でUSD 4.2 Bil(約4,200億円) であったことも報告された。前年比でみると、スタートアップ数は12~15%増、調達額は100%増と大きく成長し、スタートアップを取り巻く環境はここ数年の不調期から大きく改善したようである。ユニコーン(企業価値USD 1Bil以上の未公開企業)には新たに7社(Paytm mall除く)が仲間入りし合計15社となり、米国の126社・中国の77社に次ぐ世界第三位(英国と同位)の位置に躍り出た。

これまでにインドスタートアップエコシステムへ$8 Bil(約8,000億円)を投資してきたと報じられているSoftbankは、11月下旬よりInvest Indiaプログラムと共催でTech4Furure Grand ChallengeというAI・機械学習・顔認識・サイバーセキュリティに関連するコンペティションを開催している(テーマはモビリティに関する問題解決が多い模様)。トップ評価を得たスタートアップは$50,000(約5百万円)の資金と日本での2~3ヶ月に渡るインキュベーション機会を得ることができるとのこと。

米国利上げに端を発する、世界的な金余りの終焉、並びに新興国市場の景況悪化が叫ばれる中、まだまだ景気の良い話題も多いインドスタートアップの「今」をみてみよう。

 

Star-up India政策

インドのスタートアップエコシステムを語る上で、まずはモディ政権の政策Start-up Indiaに触れておこう。既知の通り、Start-up Indiaは持続的な経済成長と新たな雇用機会創出を後押しするイノベーションならびにスタートアップのエコシステムを構築することを目指した目玉政策の1つである。具体的な政策の中身は3つの領域・19の計画で構成されている。本稿では項目・概要を列挙するに留める。

 

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項目

概要

手続きの簡素化と手厚い手引き

1

コンプライアンス遵守の自己申告制度

スタートアップがコア事業へ集中し、かつコンプライアンスコストを低く抑えることができるよう、労務や環境に関するコンプライアンス遵守に関して、モバイルアプリを通した自己申告を可能とする。

2

スタートアップ・エコシステムの拠点

スタートアップによる情報・知見の交換、事業支援の享受、資金の獲得を容易にするため、ヒト・モノ・カネ・情報が集まる拠点を設置する。

3

モバイルアプリ・ポータルサイトの導入

スタートアップの開業手続きや規制当局からの認証取得を迅速かつ簡潔に行うことができるように、関連情報・窓口を集約した単一プラットフォームをモバイルアプリ並びにウェブポータルサイトとして導入する。

4

低コストで利用可能な法的支援と優先的な特許審査

スタートアップによる知的所有権の認知を促進し、知的財産の保護と商業利用を容易にするため、低コストで迅速な特許審査の枠組み並びに法的助言を供与する。

5

公共入札への参加資格要件緩和

公共入札において参加資格要件として問われる「過去の実績」や「過去の売上」に関して、スタートアップへの適用を緩和する。

6

迅速な清算手続き

破産倒産法に基づき、事業に失敗したスタートアップの清算手続きを迅速かつ簡素に行うプロセスを確立する。

資金調達支援とインセンティブ供与

7

ファンド・オブ・ファンズを通じた資金調達支援

スタートアップの資金調達を支援するため、政府が初年度250億ルピー、4年間で計1,000億ルピー(約1,600億円)の資金を拠出しファンドを設定する。当該ファンドは、スタートアップへ投資するSEBI登録済ベンチャーファンドへ資金を拠出するファンド・オブ・ファンズの形態を取る。

8

スタートアップへの信用保証

一般的にデフォルト・リスクの高いスタートアップへのデッド・ファイナンスを促進するため、全国信用保証協会(NCGTC)/SIDBIを通した信用保証制度を設ける。

9

キャピタルゲイン免税

資産売却によるキャピタルゲインを、政府が認めるファンド・オブ・ファンズへ再投資した投資家に対して、免税を与える。

10

3年間の法人税免除

スタートアップがあげた利益の事業への再投資を促すため、法人税を3年間免除する。

11

公正価値を超える投資に対する免税

スタートアップ企業による株式発行の際に、公正価値を超える価額の対価を受領しても、当該超過分にかかる課税は減免とする。(現在VCのみを対象とする同規定をインキュベーターへも適用する)

産学連携とインキュベーション

12

スタートアップ・イベントの

開催

学者、投資家、事業家、及びその他関係者を巻き込んだスタートアップ・コミュニティにおける定期的な連携・協業を図るために、国内外でのスタートアップイベント開催する。

13

Atal Innovation Mission(AIM)の立ち上げ

世界水準のイノベーション拠点、大規模プロジェクト、スタートアップ企業を創出するため、「起業家精神の奨励」と「イノベーションの促進」を掲げたAtal Innovation Mission(AIM)を立ち上げる。

14

インキュベーター創出に向けた民間セクターの活用

インキュベーション施設やメンター人材を確保するために、民間資本を活用した官民協業体制・枠組みを構築する。

15

イノベーション・センターの設立

インキュベーションや研究開発を促進するため、13拠点のスタートアップセンター並びに18拠点の技術・事業インキュベーション施設から成る31拠点のイノベーションセンターを設立する。

16

7つの研究拠点の設立

IITマドラスの研究拠点を参考とし、新たに7つの研究拠点を国立大学(IITs・IISc)内に設立し、各拠点に初期投資として10億ルピー(約16億円)を供与する。

17

バイオ技術分野のスタートアップ促進

毎年300~500社のスタートアップを創出し、2020年までに約2,000社のバイオ技術スタートアップのエコシステムを形成すべく、科学技術省バイオテクノロジー局によるシート・エククイティ資金拠出、並びにグローバルパートナーシップの奨励・活用を行う。

18

学生向けイノベーション・プログラムの提供

科学技術分野におけるイノベーション文化を醸成するため、学生の研究・イノベーション活動を対象とした資金提供を実施する。

19

インキュベーター輩出支援

世界水準のインキュベータ輩出を目指し、政府が選定した10のインキュベーターに対して各1億ルピー(約1億6,000万円)の資金援助を行い、スタートアップ支援サービスの質を底上げする。

(Startup India Action Planより筆者作成)

 

上記中央政府の政策に呼応し、各州においてもスタートアップ支援プログラムが多数提供されている。例えば、IT都市・バンガロールを擁するカルナタカ州はAmazon, IBM, Microsoftといった多国籍企業の支援の下、スタートアップへのインセンティブを供与している。また、政都・デリーや商都・ムンバイを擁するマハラシュトラ州では独自のスタートアップ促進政策の策定やインキュベーション施設の設置、資金拠出支援が行われている。その他、多くの州が何らかのスタートアップ支援政策・施策を有している。

 

インド・ユニコーン

こうした政策の後押しもあり、いまやインドのユニコーン企業数は15社(内、7社は2018年の調達ラウンドで仲間入り、Paytm Mall除く)と米国・中国に次ぐ企業数となっている。下記に全15社のリストを記載しておく。

 

企業名

評価額

加盟年度

セクター

投資家

Snapdeal

$7

2014

eCommerce/Marketplace

SoftBankGroup,Blackrock, Alibaba Group

Olacabs

$4.3

2014

On-demand

Accel Partners, SoftBank Group, Sequoia Capital

InMobi

$1

2014

Adtech

Kleiner Perkins Caufield & Byers, Softbank Corp., Sherpalo Ventures

One97 Communications (Paytm)

$10

2015

Fintech

Intel Capital, Sapphire Ventures, Alibaba Group

Zomato Media

$2

2015

Social

Sequoia Capital, VY Capital

Quikr

$1

2015

eCommerce/Marketplace

Brand Capital, Tiger Global Management, Kinnevik

Hike

$1.4

2016

Social

Foxconn, Tiger Global management, Tencent

Shopclues

$1.1

2016

eCommerce/Marketplace

Nexus Venture Partners, GIC Special Investments, Tiger Global Management

ReNew Power Ventures

$2

2017

Energy & Utilities

Goldman Sachs, JERA, Asian Development Bank

Oyo Rooms

$5

2018

Travel Tech

SoftBank Group, Sequoia Capital India,Lightspeed India Partners

Swiggy

$1.3

2018

On-demand

Accel India, SAIF Partners, Norwest Venture Partners

PolicyBazaar

$1

2018

Fintech

Info Edge, Softbank Capital

BYJU'S

$1

2018

Ed Tech

encent Holdings, Lightspeed India Partners, Sequoia Capital India

Udaan

$1

2018

e-commerce

DST Global, Lightspeed Venture Partners, Microsoft ScaleUp

Freshworks

$1.3

2018

Internet Software & Services

Sequoia Capital, Accel Partners, CapitalG

(CB Insightsより筆者作成)

 

主要投資家欄をみると、名立たるVCとともにSoftbankの名も見つけることができる。ここでは、日本でも話題にあがったインドユニコーン2社を取り上げ、簡単に事業概要をみてみよう。

 

【Paytm】

2018年7月、ここ数年話題を呼んでいるSoftbank World 2018において、Paytmファウンダー兼CEOのVijay Shekhar Sharma 氏が登壇した。同社はSoftbankのAI群戦略のパートナーであるが、群雄割拠の日本のモバイル決済市場において、Paytmの有するバーコード・QRコードをベースとした決済技術を利用して、ソフトバンクとヤフーの合同会社「Paypay」がサービスをローンチすると発表されたことは記憶に新しい。インド国内で1億人を超えるユーザーを有するインド発モバイル決済アプリが日本に輸入されることは大きな衝撃を与えた。

同社は2016年11月の高額紙幣廃止(現金流通総額の90%が使用不可となった)を追い風に、大きく顧客基盤を拡大した。いわば、インド政府が推し進めるデジタル時代の申し子である。今ではモバイル決済事業のみならず、銀行口座を持たない多くのインド国民に対して金融サービスを提供する決済銀行事業(預金・送金のみ利用可能)や顧客基盤を梃子としたe-commerce事業(日用品から耐久財まで幅広く取り扱い、さらに飛行機の予約まで可能)も急拡大している(なお、e-commerce事業に関しては事業部門であるPaytm mall単体で$1bilの評価額を得ている)。金融サービスプラットフォーム・Eコマースプラットフォームを基盤に、将来的には一大経済圏(楽天経済圏のようなイメージ)を築いていくものと思料する。

 

【OYO】

Oyoもまた2018年度内の日本進出を発表したインドユニコーンの1社である。2013年に当時19歳のRitesh Agarwal氏によって創業された格安ホテル運営会社であるが、その原動力はAIによる宿泊需給予測とダイナミックプライシングである。サービス品質が低く稼働率もばらつきのあるインドの個人経営ホテルをチェーン化し、IT技術を梃子としたホテル運営の効率化とサービス品質の均一化によって事業を急拡大させてきた。インドでの拡大ペースが衰えぬ中、2016年以降は東南アジア・中東・中国にも進出しており、今や全世界で30万室に届く規模のネットワークを築いている。

同社は、オンライン予約プラットフォームや各種経営・運営ツール提供の対価としてのフランチャイズ料、並びにホテルの収益分配を受け取るという収益モデルを構築している。ITによる経営・運営効率化は世界でも通用する大きな武器であるはずだが、ホテルスタッフの質に左右されるサービス品質・顧客満足度でどこまで各国における競合優位性を築けるのか大変興味深いものがある。

Airbnbが切り開いた「民泊」というビジネスモデルの興奮冷め止まぬ中、Oyoはホテル業界に新たな旋風を巻き起こしている。宿泊施設が不足していると言われているにも関わらず、日本では既存ホテル業界によるロビーイングが功を奏し、民泊事業者は様々な制約下での事業運営を余儀なくされているが、Oyoの進出が業界にどのような影響をもたらすのか(アパホテル東横インはこのまま勝ち続けることができるのか、Oyoは日本でも成功するのか)、今後注目していきたい。

 

分野別概況・トレンド

これまで見てきたとおり、インドではStart-up India政策により周辺環境が整備され、ユニコーンという成功事例も多数出てきている。分野別に最新のトレンドや具体的なスタートアップ事例をみていこう。

 

【Enterprise Software】

法人向けソフトウェア分野(SaaS)には約1,100社を超えるスタートアップが存在。内、約4割の企業がデータ解析・AI・機械学習ドリブンなサービスを展開している。2~3年前まではビッグデータ解析のブティック系スタートアップとしてFractal Analytics, AbsolutData, Manthan, Latent Viewや日本でも一時期取り上げられたMu Sigma等が話題の中心に上っていた。これらの企業は自社開発の解析ツール・プラットフォームを利用して全産業セクター向けに解析サービスを提供していた。その後、アマゾンAWS, グーグルGCP, マイクロソフトAzure等のクラウドサービスが一般に普及・浸透したため、特定の産業セクター・特定のソリューションに特化したスタートアップが多数生まれた。インド国内で知名度の高いSaaSスタートアップを列挙していくと、チャットボットのNiki.ai・Haptik・Active.ai、画像認識のMad Street Den・Staqu Technologies、意思決定支援のArticatic Data Labs・Formcept、オフィス内パーソナルアシストのmyally.ai ・Brainasoft、Logistics・Fleetセクターに特化したLucus・Netradyne、IoTに特化したFluturaあたりであろうか。その他にも大小・有象無象のテクノロジードリブン・スタートアップが存在する。既知の通りインドは欧米多国籍企業を顧客としたIT-BPMやソフトウェア開発を通してIT産業が発達しており、豊富なソフトウェア・エンジニア(アプリケーション・サーバー両方)を抱えている。こうした人材が近年のデータ解析・AI・機械学習ブームとともにデータ・エンジニアとなることを目指しSaaS分野に流れ込んでいるのである。

 

【FinTech】

フィンテック分野には900社超のスタートアップが存在する。Paytmが勝ち抜けしたデジタル・ペイメント分野に続き、現在はローン貸出分野・資産運用分野のサービスを提供する企業が増えている(企業数ではそれぞれ280社超・160社超が存在)。

例えば、CreditVidyaは2012年に設立されたムンバイ発のフィンテック・スタートアップである。彼らは初めてローンを借りる借り手の信用スコアを診断するサービスを提供している。インドをはじめ新興国では銀行口座を持たない・クレジット使用履歴がない若年層もしくは地方に住む国民が多数を占め、ローン審査において重要指標である信用スコアを使えないケースが多い。一方、スマートフォン等モバイルでのインターネット利用者が5億人に迫り、SNSデータ・ウェブアクセスログデータ・モバイルアプリデータ・GPSデータ等の個人データは利用可能性が広がっている(現時点では個人情報保護もEU-GDPRほど厳密ではない)。 CreditVidyaはこうした1万以上の個人データに基づき、5分で借り手の信用力(デフォルトリスク)を診断する機械学習アルゴリズムを構築した。米国ZestFinanceが切り開いた機械学習を用いた個人ローンの信用スコア診断であるが、インドでは従来型の書類審査・信用スコア審査・家庭訪問審査ではローンを借りられない(貸し出せない)多くの有望な借り手に対して、資金提供を可能にする合理的な手段として金融機関・ローン会社からも注目を集めている。その他、個人ローン貸出サービスOptacreditや資産運用助言サービスFundsIndiaをはじめ、数々の類似スタートアップが存在している。

 

【HealthTech・MediTeck】

ヘルステック・メディテック分野には550社超のスタートアップが存在する。良質で安価な医療サービス・医療情報へのアクセスが困難なインドでは、120社超のスタートアップが潜在患者や医師・医療機関向けのアグリゲーター(プラットフォーム)サービスを展開している。例えば、DocsAppはモバイルアプリを通して患者が医師に症状を相談できるサービスを提供している。家族に知られたくない、夜間の緊急時、セカンドオピニオンが欲しい、病院が遠方にある、等の理由で来院・通院が困難な患者でも手軽に診断を受けることが可能である。

アグリゲーター以外の事業領域でも有力なスタートアップが生まれてきている。Tricog Health Servicesは2015年に設立されたバンガロール発スタートアップである。かつてリバースイノベーション事例として持ち上げられたGEインドのECG(心電計)と同分野で、独自開発の心電計の製造・販売とクラウドベースの心電図解析サービスを提供している。医師による心電計を用いた診断を迅速化するだけでなく、機械学習を用いた解析により診断の質を向上させていることが強みである。SigTupleも2015年に設立されたバンガロール発のスタートアップであり、機械学習による医療診断サービスを提供している。インドでは一部の都市圏を除き、十分な質量の医療設備・専門医師を有する医療センターまで数百kmの道程を移動しなければならない。このような環境下で迅速な措置を施すために、SigTupleは患者が医療センターへ来院するまでの間に血液・尿・X線検査等を対象とした初期診断を自動で行えるサービスを提供し、医師の診療・処置を支援している。

 

【Ed Tech】

学習コンテンツのオンラインプラットフォーマーであるBYJU'Sがいち早くユニコーン入りしたエデュテック分野には400社超のスタートアップが存在する。インド人の最もホットな投資先の一つと言われる子供への教育は企業の事業領域として魅力的な分野であろう。世界的にもMOOCが流行し教育コンテンツへのアクセスが容易になっているが、BYJU'SはインドのK12層(from Kindergarten to Grade12)及びJEE・CAT・NEET等の高等教育入学試験受験者(JEE: IITs等工学系, CAT: IIMs等MBANEET: 医学系)を対象として人気講師による優良コンテンツを提供している。著名投資家から数十億円規模で資金調達しているSimplilearnやUnacademyもほぼ類似した事業モデルと言える。また、2018年4月に財閥リライアンス・インダストリーが株式の72.69%を取得して買収したEmbibeやtopprといったスタートアップも同様の事業モデルではあるが、個人に特化したパーソナライズド・ラーニングという点をより訴求している。つまり、学生の学習行動・特性(興味・集中力・自信・不安)を数値化し、機械学習を用いて最適なコンテンツや学習方法を提案している。

このように多くのオンラインプラットフォーマーが台頭してきたエデュテック分野であるが、既にWinner takes Allの時代が迫りつつあると思料する。その理由は2点である。まず、現在の教育ブームを牽引しているのは、急増する中間層に入りつつあるブルーカラーの両親達であるが、彼らの多くは非常に保守的でありValue for Moneyに見合う製品・サービスの中でもとりわけ信頼度の高い(口コミが多く評価が高い)製品・サービスを選択する傾向が強い。オンライン教育コンテンツのような地域性・言語の壁が比較的低いサービスはとりわけネットワーク効果が発揮されるはずである。(なお、インドでは上記カテゴリーの両親達は授業が英語で行われる私立学校、ないしは最近増加しつつある英語で授業を行う公立学校に子供を進学させたがるケースが多い。授業料は高くなるが、子供が英語を使いこなしより良い職を得るために投資は惜しまないのである。)もう一つの理由は、人気講師による優良コンテンツの囲い込みが起こることである。講師にとってはWinnerとなるプラットフォームに授業を提供する方が、経済的な報酬も教育者として多くの学生を支援するという意義も大きい。真偽の程は定かではないが、一部では既にBYJU'S・Simplilearnに集約されつつあるという声もある(売上規模や成長を比較してみると真偽を判断できるであろう…)

 

【Agri Tech】

インドは世界で二番目に広い農耕地を有し、労働者人口の約半分が第一次産業従事者である一方、GDPに占める同産業の割合は20%未満と、農業を主とする第一次産業の付加価値は低いと言わざるを得ない状況である。モディ首相も2020年までに農業従事者の平均収入を2倍に引き上げると公言しているように、第一次産業における生産性改善及び付加価値創出が強く期待されている。資本・労働集約的な側面の強い同産業をテクノロジーの力で変革するアグリテック分野には現在300社超のスタートアップが存在しているが、そのサービス内容は農地の天気予報から耕作助言まで多岐に渡る。Em3は2014年に設立されたマディヤプラデシュ州発のスタートアップである。農家が生産性を上げるためには最新の農機やIT設備が必要であるが、多くの小規模農家にとっては投資負担が重く、従来はそういった農機・設備を導入できなかった。Em3はトラクターや収穫機等の農機を提供する代わりに、使用時間や使用する農地の広さに応じた料金を徴収するPay-for-Useモデルを採用し、小規模農家へサービスを提供している。現在は農機だけでなくITベースのオペレーション管理システムをモバイルアプリとして提供する等、農家の生産性改善に資するサービス範囲を拡大している(Pay –for-Useモデルによる農家支援サービスをFaaS: Farming as a serviceと呼んでいる)。

AgroStarは肥料・種・農薬に関する助言や販売を行っている。専門家による適切な助言により品質の良い農作物づくりを支援するとともに、専用アプリを利用することで適切な量・質の肥料・種・農薬を透明な価格で迅速に提供している。その他、多くのアグリテック・スタートアップは未だシリーズB に至っておらず、今後同分野の一層の拡大が期待される。

 

多少冗長な文章になってしまったが、以上がインドスタートアップ界隈の概況である。

 

(参考)

https://www.startupindia.gov.in/

NASSCOMレポート: Indian_Start-up_Ecosystem_2018-Final_Report