FDI(外国直接投資)規制 -対印投資の現状ー

2018年のEase of Doing Businessランキングが発表された。インドは昨年の100位から23位順位を上げ、190ヶ国中77位にランクインした。モディ政権による税制改正などの施策が功を奏した形といえるであろう。今後益々、外国資本の流入が期待される。今回は対インド直接投資(FDI)について、最新の動向をお届けする。

 

モディ政権の公言目標・政策

既に周知の通り、モディ首相は経済成長を実現すべく、Make in India、Invest India、Start-up India、Digital Indiaなど各種産業政策を唱えている。同時に、こうした政策の実現にあたり、外国資本の流入を加速させるべく、事業運営の弊害となる既存の複雑なシステムを改正し環境整備を行っている。その指標としてEase of Doing Businessの順位を50位まで上げることを目標として公言している。2017年6月に導入された税制改正(GSTへの統一)もまさに事業環境整備の一環である。また、2017年8月には従来より規制緩和されたConsolidated FDI Policyが発効され、更なる外資流入を見込んでいる。

 

印中マクロ経済比較

現在のインドマクロ経済をみると、12年前の中国の姿に類似しているといえる。一例として、下記にGDP、及び海外直接投資残高の印中比較を掲載しておく。共産党主導の政治体制やグローバルリセッションというきっかけが中国の飛躍的成長の背景にあったため単純比較はできないが、年率7%の経済成長を遂げているインドの今後10年は中国の過去10年と同じくらいの飛躍的成長が期待される。インド自動車産業の雄・マルチスズキ(スズキ自動車)による積極的な投資はもとより、最近ではSVF(ソフトバンクビジョンファンド)によるインドスタートアップへの投資など、日系資本によるFDI比率も全体の~10%を占め、決して存在感は薄くない。

 

(上段:実質GDP、下段:直接投資残高)

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インド政府によるFDI活性化施策に乗じ、今後も日系資本による投資流入は増加の一途を辿るであろう。その際の備忘録として、下記に最新のFDIポリシーを記述しておく。内容は、FDI禁止セクター、承認ルートの分類、主要セクター別の詳細である。

 

FDI禁止セクター

  • Lottery Business including Government/private lottery, online lotteries, etc
  • Gambling and Betting including casinos etc.
  • Chit funds
  • Nidhi company
  • Trading in Transferable Development Rights (TDRs)
  • Real Estate Business or Construction of Farm Houses ‘Real estate business’ shall not include development of townships, construction of residential /commercial premises, roads or bridges and Real Estate Investment Trusts (REITs) registered and regulated under the SEBI (REITs) Regulations 2014.
  • Manufacturing of cigars, cheroots, cigarillos and cigarettes, of tobacco or of tobacco substitutes
  • Activities/sectors not open to private sector investment e.g.(I) Atomic Energy and (II) Railway operations

 

承認ルートカテゴリー

  1. 自動承認ルート:政府承認不要
  2. 政府承認ルート:政府の事前承認必要。Foreign Investment Facilitation Portal(FIFP)が統一申請窓口となり各省庁の適格機関が申請内容を審議。

 

主要セクター別概要

いくつかの産業セクターについて具体的な規制内容をみていこう。

まずは、Make in IndiaでFDIを奨励している製造業。2014年にインド自動車最大手マルチスズキ社の親会社スズキ株式会社が100%出資でグジャラート州に四輪車の新組立工場を設立したことは大きな話題を呼んだ。自動車関連のみならず電子電気・化学品・医療器具・食品加工など幅広い分野でにおいて、外資100%出資が自動承認ルートで認められている。

小売に関しては、シングルブランドによる外資100%出資企業の製品製造・小売販売が認められている。(出資比率49%までは自動承認、49%超の場合は政府承認。)条件としては、1) 国際的に同一ブランド展開をしていること、2) 外資企業が51%超の出資を行う場合、商品購入価値の30%以上をインド国内から調達しなければならないこと、等がある。ただし、2) については事業開始から最初の5年間は調達総額の平均で条件をクリアすればよく、また、インド国内事業だけでなくグローバル事業向けの調達額も当該試算に含めることが可能。(2018年8月Amendment)更に、製品が最新かつ最先端(“state-of-art” and ”cutting-edge”)であり、インド国内での調達が不可能な場合については、申告により事業開始から最大3年間は上記調達ノルマは適用されない。他方、マルチブランドによるFDIは51%出資まで政府承認により認められているが、インド内資企業との合弁が必要となっている。

アマゾンによる積極投資やウォルマートによるフリップカート買収などが話題にあがるEコマースのFDIについては、B2Bマーケットプレイスモデル(登録済販売者と購入者の仲介)のみ100%出資が自動承認ルートで認められている。(B2Cは特定条件下で許可)一方、アマゾン本国の事業モデルである在庫保有モデル(在庫を保有し購入者へ直接販売)は、国内生産品の販売促進のため国内事業者のみに許可されており、FDIを通した外資による同モデルへの投資は認められていない。(食品を除く)

インドが誇る一大産業セクターであるIT/BPMにおいても外資100%出資企業が自動承認ルートで認められており、欧米主要IT企業が数千~数万人規模でワーカーを雇用している。

再生エネセクターも見てみよう。ソフトバンクビジョンファンドが6兆円超のインド太陽光発電の大規模事業への投資を表明しているが、このセクターも外資100%出資企業が自動承認ルートで認められている。

ソニーソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント)が参入しているメディア・放送業界についても外資100%出資が自動承認ルートで認められている。インドには政府系放送チャネル2局に加え、800超に上る民営放送チャネルが存在し、サブスクリプション契約で放映サービスを提供している。

最後に業績不振の国営フラッグキャリアAir Indiaの民営化が話題に上がっている航空産業。2018年8月Amendmentにて、外資によるAir Indiaへの直接・間接出資比率は合計で49%を超えてはならず、また、引き続き、Substantial OwnershipはおよびControl はインド政府に属するという旨が公表された。

 

上記にてセクター別のFDI規制動向の概要を述べたが、とりわけEコマースに関しては在庫保有モデルの規制緩和が度々話題に上るため、今後も最新の規制動向をチェックする必要があると思料する。

なお、各セクターの規制詳細は参考URLをご覧いただきたい。

 

(参考)

http://www.makeinindia.com/policy/foreign-direct-investment

https://www.investindia.gov.in/foreign-direct-investment

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2017/02/4fb0de2f3e2858f2.html